孫正義「なぜ私が創業2年間は一切営業活動をしなかったのか。一生懸命働くのではなく、”一所懸命”に働け。」
[ad#co-1]「私事で恐縮ですが….ご存知の方も多いと思いますが、お世話になった◯◯社を退社し、新しく◯◯社を立ち上げました。」と会社を起こして、笑顔でフェイスブックなどに投稿を最近よく見かけるようになり、書店にも起業を促進するような本が所狭しと並んでいますが、独立後、5年で85%の会社が潰れると言われ、成功者はインタビューなどに引っ張りだこになりますが、失敗した人は、自分の体験を周りに語りたがらないため、起業することの本質が分かりやすいかたちで、世の中に伝わる機会は以外と少ないのかもしれません。
↑起業した瞬間のテンションが一番高く、後はどんどん下がっていくばかり (Heisenberg Media)
大企業に就職して部長や役員になるのは、実力に加え、派閥や上司との関係など、様々なしがらみがあるため、辛抱強く我慢する必要がありますが、「社長」には誰でもなることができ、日本には法人企業と個人商店を合わせると約700万人の「社長」が存在し、日本の労働人口が6000万人程だと考えると、大人の約8.5人に一人は「社長」であるという計算になります。
↑「社長!」と呼んだら、一体何人が振り向くだろうか?(Brian Huang)
失敗すれば大きな犠牲や代償を払うことになる戦争は、負けることが許されないため、織田信長にしても、ナポレオンにしても、戦う前には必ず「戦略」を立て、軍隊の規模や武器の数で圧倒的に不利な状態でも、確実に勝利できるように様々なところで頭を使いました。
ビジネスでも勝利しなければならないことを考えれば、概念は戦争と変わりませんが、起業家はビジネスに失敗しても殺されることがなく、戦略や情報を軽視して、勢いだけで正面突破しようとするため、設立1年目の企業の生存率は40%ほどしかなく、大半の起業家は自分が、「殺されている」ことにすら気づいていないのかもしれません。
↑負けることが許されない戦争と「殺されている」ことにすら気づかない起業家 (The U.S. Army)
ペイパルのCEOを務め、フェイスブックの初期投資家として知られるピーター・ティールは、弱者であるベンチャー企業が生き残る唯一の方法は、「小さい市場」を独占するしかないと述べていましたが、強者の条件が市場占有率26%以上で、なおかつ市場1位を獲得していることだと定義すると、この条件を満たしている企業は1000社中5社ほどしかなく、残りの995社は弱者と言うことになります。
例えば、日産やマツダ、そしてライオンなどは大企業ですが、これらの会社は業界2番手以下であるため、「弱者」と考えられ、さらに995社中400社は、競争条件が著しく不利な「番外弱者」、ましてや起業して5年以内の会社などは「番外中の番外」、独立したばかりの会社に至っては、最低の弱者ということになります。
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↑1000社中995社は市場の弱者 (Emilio Labrador)
ナポレオンが小さな戦力で、戦争に勝つために古今東西の様々な戦略書を読みあさり、2500年前に中国で書かれた「孫子」の、「十を持って一を攻めよ」という教えを参考に、ヨーロッパ全土をほぼ征服し、皇帝の地位にまで上りつめたように、圧倒的に不利な立場にあるベンチャー企業が、大混乱の戦場で生き残り、頭角を現していくためには、根拠のない根性論ではなく、徹底的に考えつくされた「戦略」が、最終的には勝敗を左右することになります。
ナチスのユダヤ人虐殺を生き延び、ヘッジファンドで2.6兆円もの資産を築いたジョージ・ソロスは、次のように述べました。
「まず生き残れ。 儲けるのはそれからだ。」
↑まずは生き残れ!本当のビジネスはそれからだ (World Bank Photo)
小さな市場を独占し、その市場でダントツ1位になる戦略として、「ランチェスター経営」というものがありますが、これは今では名の知れた、ソフトバンク、H.I.S、マツモトキヨシ、タリーズ、そしてセブンイレブンが創業時に導入していた経営戦略で、もともとは第一次世界大戦中に軍事的な戦略として考案されたものでした。
中でもソフトバンクの孫正義氏は、ソフトバンクを福岡で起業した当初、営業活動など一切行わず、 朝の9時から夜中の2時まで事務所にこもり、様々な資料に目を通して、長期的な戦略を練っていたそうで、売上が会社に全く入ってこないことを心配したソフトバンク従業員は、会社が潰れるのではないかと不安になったそうです。
↑戦略なしで、戦場に行くのは自ら死にいくようなもの (shinbishika)
ランチェスター経営とは、日本一とか、県内一を目指すものではなく、特定の地域や世代、または客層など、「できるだけ小さい市場」にターゲットを絞り、その中でダントツのナンバーワン(2位に大差をつけて市場の26%以上を獲得すること)になることで経営を安定させ、また別の小さい市場を選んで、ナンバーワンになることを繰り返しながら会社を大きくしていく戦略で、世の中の95%の弱者企業にとっては非常に勝率が高いと言われれいます。
↑小さい市場でダントツナンバーワン「東京で3流よりも、地方で1流」(stanley yuu)
創業5年以内の弱者にとって、「何でもやります!」はまさに戦場に手ぶらで突撃するようなものであり、お客さんやユーザーに会社の名前を覚えてもらうためには、「小さな靴の専門店」、「大きな服の専門店」などと市場を狭め、まずはその中でダントツ1位になることで、経営を安定させなければなりません。
市場の独占率を高めることで、利益はどんどん増えていき、決算書が公開されている株式上場企業を例にとってみると、市場独占率1位の企業の社員一人あたりの経常利益は、2位から4位の企業の3〜6倍もあります。
↑日本で2番目に高い山は?基本的にナンバーワンしか顧客に覚えてもらえない (jose renteria)
例えば、ローソンとセブンイレブンでは売上の差が大きくありますが、ローソンは県内全域にバラバラに新店舗を出すのに対し、セブンイレブンはある一定のエリアに集中して出店することで、パンなど生鮮類の小口配送するコストと時間を節約しており、営業利益はローソンの3倍、売上は1.8倍、コンビニ業界の市場のシェアも38%を獲得と、セブンイレブンは業界内でまさに、「戦略勝ち」していると言えます。
↑全国47都道府県に出店する必要はない (shibainu)
一回の取引額が比較的小さい場合は、移動時間を30%以内に抑えておかないと採算の維持が難しくなりますが、全国の中小企業の社長には、「いやー、儲からない上に、バタバタしています。」が口癖のバタバタ貧乏、通称「バタビン」と言われる人が圧倒的に多く、とにかく一生懸命仕事をするのではなく、「一所懸命」に仕事をする意識を持つことが大切なのかもしれません。
住宅リフォームを行い、創業4年目で年商25億円を売上た「ホームテック」という会社は、新しく店舗を作ったら、その店の営業エリアは、車で往復30分以内でなければならないという決まりがあり、そのラインを越えて営業・契約をした場合は、即クビという厳格なルールを設けています。
↑忙しいわりに儲けが少ない、「バタバタ貧乏」が圧倒的に多い (jamesjustin)
元ペイパルCEOのピーター・ティール氏も次のように述べています。
「トルストイは“アンナ・カレーニナ(ロシアの長編小説)”の冒頭にこう綴った。“幸福な家族はみな似 かよっているが、不幸な家族はみなそれぞれに違っている。” 企業の場合は反対だ。幸福な企業はみな違っている。それぞれが独自の問題を解決することで、独占を勝ち取っている。不幸な企業はみな同じだ。彼らは競争から抜け出せずにいる。」
↑幸福な企業はみな違っているが、不幸な企業はみな同じだ (Heisenberg Media)
では、「ランチェスター経営」を導入する際、一体どれくらい働いたらよいのでしょうか。
第一次世界大戦中に軍事的な戦略として、初めてランチェスター戦略を考案したフレデリック・ランチェスター氏は、「攻撃力=(兵力数)^2 ×(武器性能)」と表しましたが、これを経営に置き換えると次のようになるそうです。
経営(もしくは人生) =素質 × (時間)^2 + 過去の実績
※^2は二乗
↑素質も実績もないのであれば、圧倒的な時間の投資を (Japan Time)
さらに 素質×(時間)^2のところだけを詳しくみてみると、時間は^2(二乗)をつけて計算する必要があり、例えば人の2倍働こうと思うのであれば、単純に時間を2倍にするのではなく、√(ルート)をかけて計算すれば、具体的な数字が出てきます。
一般的に普通の企業は8時間勤務で、昼休みを除くと実際に働く時間は7時間なので、それを基準に考えると次のようになります。
人の2倍働こうと思ったら
7 時間× √2 =10時間
人の3倍働こうと思ったら
7 時間× √3 =12時間
人の4倍働こうと思ったら
7 時間× √4 =14時間
人の5倍働こうと思ったら
7 時間× √5 =15〜16時間
↑人の5倍働くのであれば、睡眠、食事、そして運動以外の時間はすべて仕事 (hackNY.org)
上記の計算は才能がある人ない人が、どれくらい働けば成果を出せるのか、コロンビア大学のバーナード・O・コープマン氏がシミュレーションしたものですが、人の3倍の時間(1日12時間)を投入すると、大体勝てるようになり、4倍の時間(1日14時間)を投入すると、「圧勝」できるレベル、才能が劣る人でも通常4倍の時間を投入すれば、まず「負ける」ことはありません。
これを1年単位で考えると、年間100日程度の休日を除いた中小企業の労働時間は、平均1850時間なので、3倍働くのであれば、1850時間 × √3 = 3200時間、1年間1日も休まずに仕事をすると、3200 ÷ 365で1日約8.7時間働けば達成できます。
4倍の時間を投入して圧勝を狙うのであれば、
1850時間 × √4 = 3700時間 (1年間1日も休まず頑張るのであれば、3700 ÷ 365 で1日約10時間)
5倍の時間を投入して、死ぬほど働く覚悟があるのであれば、
1850時間 × √5 =4140時間 (1年間1日も休まず頑張るのであれば、4140 ÷ 365 で1日約11.3時間)
バーナード氏のリサーチによれば、これを10年〜15年ほど続ければ、ランチェスター経営は成功するそうです。
↑どんなに実力が劣る人でも、5倍の4140時間、働けば圧勝できるようになる (Stephen Korecky)
たった一代で大きな偉業を成し遂げた偉人の働いた時間を見てみると、トーマス・エジソンは年間6500時間(1年間1日も休みなしで、1日約18時間)を40年間、キューリー夫人は年間5000時間(1年間1日も休みなしで、1日13.6時間)を35年、日本を代表する経営者、本田宗一郎さんも年間5500時間(1年間1日も休みなしで、1日15時間)を35年続けており、ホンダ元社長の入交さんは、本田宗一郎さんのエピソードを次のように語っています。
「あるとき、本田さんが仕事をしていて、嫁さんが昼飯を持ってきたら、“おい、かあちゃんよ。今日はだれも出てこないがね。従業員はみんな辞めたんかね”と聞いたそうです。嫁さんが、“なに言っているの。今日は正月よ”と言うと、本田さんは“ああそうか”と言って、また仕事を始めたそうです。」
↑正月すら忘れていた本田宗一郎 (jetjam)
その人がどこまで目指すのかは、人それぞれですが、計算してゴールまでの時間を割り出すのは簡単でも、実際に実行できる人はほとんど存在しません。
実際、365日、一日も休まずに働き続けることなど、生半可な根性がなければ続けることはできませんし、スティーブ・ジョブズや孫正義さんに憧れる若者は、自分がどれだけ働く必要があるのか、一度考えてみる必要があります。
最近では、いかに効率よく、短時間・短期間で結果を出すやり方が、もてはやされる傾向が強いですが、一部の天才を除いて、凡人が豊かな人生、そして経済的に安定した生活を確立するためには、長時間労働が欠かせないのかもしれません。
人生に「遅いこと」はなく、いつでも本気になれば、何でもできるのかもしれませんが、年を取れば取るほど、リスクが高くなることもお忘れなく。
死ぬ気で働く覚悟があるのであれば、もう今から始めるしかありません。[amazonjs asin=”4860637909″ locale=”JP” title=”まんがで身につく ランチェスター戦略 (Business ComicSeries)”]
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