偉大な兄に挑む「孫泰蔵」式、進化したVCが社会に衝撃
兄の孫正義とは違う路線をいくと発言しているが、新興企業育成で戦略的シナジーグループを作っていくという本質的なビジョンは変わらない。
アルファベットの行っているGoogle Venturesにしかり、自立、分散、協調した企業体系が伸びていく時代に変化しているといえる。
(Bloomberg) — 新興企業育成を手がける孫泰蔵氏(43)の兄は、ソフトバンクグループ社長の正義氏(59)だ。買収を繰り返し世界的な経営者として名を上げた偉大な兄に対し、泰蔵氏は別の方法で社会を変えようとしている。
泰蔵氏は8月30日のインタビューで、2013年に立ち上げ、今年、活動を本格化させたMISTLETOE(ミスルトウ、宿り木の意)について「進化したベンチャーキャピタル(VC)」だと語った。医療や教育、住まい、農業などのテーマに沿って新興企業に出資し、専門家と一緒に支援する。泰蔵氏は社長を務め、起業家の活動を支える場として、秩父宮ラグビー場(東京都港区)の目の前にあるビルに、約1300平方メートルのオフィスを構えた。
投資基準は社会に衝撃を与えられること。これまでに30社から40社の新興企業に対し、約100億円を投資した。資金は全て泰蔵氏が提供しており、回収までの期間を通常のVCより長めの10ー15年に設定する。起業家のアイデアを形にするため、共同創業したり泰蔵氏自身が会社を作ったりする場合もある。
社会的な影響を考慮しない投資に「ちょっと飽きた」と泰蔵氏は述べた。東京大学在学中からヤフーの立ち上げに参画し、創業したガンホー・オンライン・エンターテイメントは大人気ゲームを生み出した。刺激的で面白かったが、まだまだ社会には問題があふれている。もっと直接的に問題を解決する方法に「だんだん興味が湧いてきた」という。
転機
きっかけは11年3月に発生した東日本大震災だった。日々、伝えられる惨状にショックを受けた。個人的に支援物資を送ったが、「役に立ってないな」という気持ちがあったという。非常事態にこそ役立つテクノロジーを作るべきだ、という思いは強まっていった。
インターネットの進化も、泰蔵氏の思いを後押しした。パソコンやスマートフォンの画面にとどまっていたインターネットがさまざまなものにつながり、新しい方法で使われるIoTの時代になった。泰蔵氏は「インターネットがいよいよ画面の外に飛び出してきた」と言い、災害時でも「できることはいっぱいある」と話す。
投資先である米ジップラインは自動飛行型のドローンを使い、アフリカのルワンダで遠隔地に輸血用の血液を運ぶ活動に取り組む。またサイマックス(東京都千代田区)はトイレに取り付けた尿の分析装置で、健康状態を分析することが可能だ。ほたる(東京都文京区)は災害時などに使える水循環システムを手がける。
新しいアイデアを持っている人たちと一緒に活動し「少しずつでも社会が変わっていくダイナミズムの中に自分がいるときに、ものすごく楽しいと気がついた」と泰蔵氏は言う。社会的な影響のある投資を手がけるのは「世のため人のためというのではなく、楽しいから」だ。
「群れ」で変革
兄、正義氏のソフトバンクが英半導体設計会社アーム・ホールディングスの全株式を総額約240億ポンド(約3兆3000億円)で取得すると7月に発表した直後、泰蔵氏は自身のフェイスブックに正義氏の投資の強みについて「テクノロジーについて技術的価値と経済的価値の両方をもって未来を予測できること」だと書き込んだ。また「少しでも差を縮めようとしているのに、いつも引き離された感じがして本当に悔しい」「『ああ、こりゃあ、かなわないな』と僕は正直思った」とも吐露している。
一方、泰蔵氏の取る方法としては「一つ一つの企業体をできるだけ小さく保つことで生命力を最大限に引き上げ、企業体の『群れ』でイノベーションをコレクティブに加速させていく」と表現。「『孫泰蔵式』とでもいうものを確立していけたらなあと思う」と記載している。
インタビューでは、フェイスブックの記述について「俺はやつとは違うやりかたをやって、俺の方が上に行ってみせるというのを優しく言っている」と笑いながら解説した。また正義氏の方法についても「20世紀型だと思っている。もう古いんじゃー、みたいな」と冗談めかして述べた。
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