お金で「うつ」になる本当の理由

お金で「うつ」になる本当の理由

うつ

 

連載:東洋医学のブラックジャック「幸せの処方箋」

世界のセレブから診療を依頼される筆者は、「金融業界には精神を病む人が多い」と言う。
お金で振り回されるのは、借金苦の人だけではない。
高額な報酬を得ながら、精神を病むのはなぜか?

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お金を儲けて幸せになろうと思う人は多い。私の漢方外来のドアをノックしてきたのも、まさにそんな30代のファンドマネジャーだった。現代医学のクリニックではなく、東洋医学の私の診察室にやって来たのは理由がある。

まず、彼は何のきっかけもなく、突然、会社に行くことが大きな負担となった。数カ月後、会議や一対一の会話で、人の話が理解できなくなり、同じことを何度も聞くようになった。当然、同僚からは「おかしい」と噂された。そこで精神科を訪ねると、「軽い抑うつ状態」と診断され、抗うつ剤や睡眠導入剤、抗不安薬を処方されたのだ。目の前には苦痛の原因がなくても、心は激しい苦痛を味わう。薬を飲んでみたものの、ボーッとするだけで、薬が切れると、不安要素が消滅しているわけではない。心は不安なままなのだ。人に説明できない不安の正体とは何か。

漢方が心を中心とする医学だと聞いた彼は、こうして私のところにやって来た。通院を始めると、彼は自分の半生をよく喋るようになった。例えば、仕事やプライベートで初めて会う人にはそれとなく大学名を聞き、立場から年収を想像して優越感に浸っていたこと。タクシーの窓から営業マンが汗だくで歩く姿を見て、優越感に浸っていたこと。

私が勧めたのは、退職だった。彼は私の助言に従った。無職になった彼は、それまで無職の人や低所得者を軽蔑していた自分に気づいた。同窓会で無職になった心境を話すと、昔の同級生が涙を流してこう言ったという。
「やっとわかってくれたか。実は、俺はお前が嫌いだったんだ。お前は昔から人を馬鹿にしていたから。わかってくれてよかった」。別の同窓会でも似たような反応があり、彼は驚いていた。

彼のモノサシはすべてお金だった。顧客が求めるのは直接的なお金であり、金融の世界はすべてダイレクトにお金と直結している。ほかの仕事なら、求める成果は金額ではない別の地点にあり、努力と金額の間にクッションがある。また、成果が金額になるまでに時間差がある。

私は金融のダイレクト感が精神によくないと思った。人は幼いときからお金で苦しむ親を見れば、お金と精神が直接的に強く結び付けられて育っていく。その結びつきが強い人は、損した額が1億円でも1万円でも、額に関係なく精神が動くことになる。

金融関係の人がうつになる場合は、そんなお金の魔力が、東洋医学でいう「気」の流れを阻害し、精神的な病につながるのではないだろうか。金融のダイレクト感により、人の心は影響される。つまり、仕事と報酬は直接的でない方がいい。

「お金のことを考えない方が、お金が入る」。そんな名言を私は思い出すのだ。

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