IWC シャフハウゼン CEO「自分の弱い分野では戦うな」
弱冠36歳にして2002年にIWCのCEOに就任したのち、
みるみるとブランド価値をグローバルに高めた
ジョージ・カーンが、その哲学を語る。
保守的なブランドを改革。ラグジュアリーブランドへの
転換を果たす。
その製品を手首に巻いてみるときは言うまでもなく、
ビジネスにおけるブランドについて考えてみるときも、
IWCシャフハウゼンは魅力的な対象だ。
1868年にスイスで創業されたアイ・ダブリュー・シー
(創業当初の社名はインターナショナル・ウォッチ・
カンパニー)は、長らく欧州を主なマーケットとし、
アメリカやアジアでは“知る人ぞ知る”高級腕時計メーカーと
見られていた時代もあった。
それが今ではクリストフ・ヴァルツやケイト・ブランシェット
らハリウッドスターをアンバサダーに迎え、
日本での銀座ブティックを含めた50もの瀟洒な
直営ブティックを世界各国に展開するグローバルな存在と
なっている。
このようにIWCがブランドとビジネスを大きく、
そして急速に拡大させるにあたって核となったのは2002年、
36歳で同社のトップの座に就いたドイツ生まれの
ジョージ・カーンだ。
[ad#co-1]今年50歳になったカーン自身は当時をこんなふうに振り返る。
「それまでの経営陣は典型的な“時計産業人”たち。
伝統的で保守的でした。その中に若い私が入っていった。
それまで率いたことのあるチームは最大でも10人で、
それがいきなり350人のトップです。『君は誰だ?』
という反応でしたね」。
だが、彼にはひとつの確信があった。
「そのころのIWCはスイス、ドイツ、イタリアの3カ国を
主な市場とする小さくて、広くは知られていない未開発
のブランドでしたが、潜在能力を引き出す大きなチャンス
が見えた。これは凄い仕事になると思えたのです。
サッカーでも1部リーグに留まる努力をするより、
3部リーグから1部リーグに昇格していく方が楽しいし、
やりがいがあるでしょう?」
大きな課題は主に2つあった。「マネジメントと製品」だ。
マネジメントについてカーンは、こんな“秘訣”を明かす。
「自分の弱い分野では戦うな」、そして
「ベスト・プレイヤーを見つけろ」。
彼自身は、IWCを擁するリシュモン・グループに入るまで、
日用消費財(FMCG)のクラフト・フーズとラグジュアリー
製品のタグ・ホイヤー(LVMH)という、販売価格帯では
両極端ともいえる2社で能力を磨いてきたマーケティングのプロ。
「FMCG業界での課題は消費者の嗜好に対応することですが、
ラグジュアリー産業では新たなアイデア、新たなトレンドを
提示することが欠かせない。ビジネスのアプローチがまったく
違いました」と言いつつ、IWCでも特にマーケティングに
注力してきた。
[ad#co-1]チーム・ビルディングと業容拡大の結果として、
CEO就任当時350人だったIWCの人員数は現在、
世界各拠点の総数1,300人にまで膨らんだ。
創業以来、スイスの時計メーカーとしては珍しくドイツ語圏
のシャフハウゼンに構える本社には、世界各国から求職の
エントリーが絶えないという。
製品ラインナップの面では、「新しいカルチャーは伝統の上に
築かなければなりません。技術、品質、歴史を保ってこそ、
消費者もIWCを信頼できる」としつつ、カーンは次のように
指摘する。
「ラグジュアリー製品が求められるのは必要不可欠だからでは
なく、夢を生み出すから。大切なのはマーケットとのつながり
のあるモダンなデザイン、最新の技術を盛り込んだ製品を
提供し続けていくことです」
昨年、IWCとしては久しぶりに、製品を「ポートフィノ」
シリーズに加えたことも、「マーケットとのつながり」を
重視する姿勢の表れだ。「IWCに入ってから、私の仕事は毎年
変わっています」というカーンの言葉は、マーケットが
それほど速いペースで変わり続けているとの認識を示すもの
だろう。
彼はさらにIWCの成功の鍵として、「製品につながりのある
ストーリーやイメージを提供していくこと」という、
マーケティング面での取り組みを強調する。
ここでも重視しているのは「つながり(relevance)」だ。
実際、カーンはIWCにおいて、ガラパゴス諸島で生態保護活動
を手がける研究所を運営するチャールズ・ダーウィン財団他、
アントワーヌ・ド・サン=テグジュペリ・ユース財団などを
支援する独自の取り組みを続けている。これはIWCのプロダ
クトがそれぞれ特徴的で、固有のストーリーや意味合いを
表現していることとつながるものであり、イメージ戦術を
超えたマーケティング戦略、経営戦略として、
プレミアムウォッチ業界以外からも大きな注目を集めてきた。
英フィナンシャル・タイムズ紙は昨年11月、
創業150年近い老舗を再活性化させてグローバル・ブランド
へと押し上げたマネジメントとマーケティングの練達として
カーンを紹介する記事に、こんなタイトルを冠している
─「グローバル展開を図るIWCのルールブレイカー」。
[ad#co-1]その「掟破りの人」は語る。
「大学などで若い人に話をするとき、まず言うんです、
『常に眼を見開いていよう。あらゆるところから
インスピレーションは得られる』」。
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